心に穴が空くって言うでしょ? 僕ね、人の心がないって言われたことあるんだ。じゃあ心に穴が空いてるんじゃなくて、心があるべき場所に穴が空いてるんじゃないかなって思うんだよね。でもそれってだいたいおんなじじゃない? 違う?
 何、その顔。めんどくさいって? 冷たいなあ、それでも先生に対する態度? 僕だって傷つく時は傷つくんですけどー。嘘っぽい? ひどーい。まあ、これくらいじゃ傷つかないけどね。
 話を元に戻すけど、呪術師は呪霊を生まないでしょ。これ、テストに出ます。嘘、こんな基本は出ないよ。残念でした。……もうちょっと残念そうな顔してくれてもいいんだよ?
 また脱線しちゃった。ええっと、心に穴が空くほど強いストレス、それに伴う負の感情、それが呪霊を生む。でも、呪術師は傷ついても呪霊を生むことはない。呪術師だって人間なんだから、非術師と同じように傷つくのにね。負の感情だってちゃんとある。でも、その行く末は? 考えたことない? まるでどこかに忽然と消えるみたいじゃない?
 呪力の制御ができるから、感情とともに漏れ出す呪力が呪霊を形成することはない。うん、そうだね。教科書通りの答えだ。もちろんその通りだよ。呪術師は自分の呪力をコントロールできる。それが僕たちの存在理由のひとつなわけだし。でもさ、そうやってコントロールされた感情って、本当に非術師と同じ感情なのかな。
 あ、馬鹿なこと考えてるって思ってるでしょ。そんなこと気にしてるなんて意外って? 柄にもない? ふうん、恵は僕のことをそう思ってるの。いや、予想通りだけどね。だって僕、呪力がめちゃくちゃ無駄にはっきり見えちゃうでしょ。だからね、わかるんだ。呪力と感情はある程度、連動している。もちろん、優秀な呪術師は感情の乱れと呪力の流れを切り離すすべを心得ている。感情の方をコントロールしていると言ってもいい。
 でもさあ、呪力は見えるのに感情は見えないんだよ。だから、この感情は本物なのか、それとも人の振りをしているだけなのか、時々、迷うんだよ。
 何を当たり前なことを、って? そうだよ。でも僕にとっては不思議なことだよ。両者は不可分なのに、片方しか見えないなんてね。僕にとっては呪力が見える方が普通だからね。便利でいいでしょ、あげないよ。え、何、要らない? あ、そう……。まあ、この六眼はちょーっと敏感すぎるのが玉に瑕だからね。何でも見えればいいってもんじゃない。見えすぎるのもそれはそれでめんどくさいし。調節機能がいまいち足りないんだよ。融通きかないったらありゃしない。恵もわかるでしょ。ええー、嫌そうな顔しないでよ。
 ……六眼を持って生まれなかったら? そうだなあ、この眼がなかったら僕は――――

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