地獄を歩いている。
 どこまで行っても真っ暗闇で、険しい道のりだ。この行く先に果てなどないことを知っている。幾度も幾度も繰り返し、徒労を味わい、逃げ出した。脱落ではなくて撤退なのだと、そう言い訳して、背を向けた。
 ひとりで生きていけると強がって、ひとりでは寂しくて生きていけなかった。暗闇の中を手探りで歩きながら、時折差し込む細い光の照らす誰かの手に触れて、ひとりではないことを確かめる。その温かさが地獄をほのかに照らす道しるべになるから。
 笑われてもいい。愚かな行為と知って戻ってきた。もっと賢く生きていくと決めたけれど、自分はそれほど賢くなかった。名前も知らない誰かが――あなたが微笑む、たったそれだけを支えとして、この地獄を歩んでゆくと、今度こそ決めた。

 瞼の裏で、呪いになり損ねた願いがたゆたっている。

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