私の墓の前で泣かないでください。そこに私はいません。私は今、あなたの背後にいます。

「ちょっといろいろと混ざりすぎじゃない?」
「やりたいこと全部乗せした」
「前々から思ってたけど、悟って結構馬鹿だよね」
「はあ? 何言ってんの? どう見ても天才だろ。術師の死体が綺麗に残るわけないんだから」
「そりゃそうだけどね? 何で背後?」
「メリーさん、一度やってみたかったんだよな」
「死後呪霊に転じてどうするんだよ。――それはそれとして、メリーさん、欲しいな」
「傑の収集癖も大概じゃん」
「手札は多い方がいいだろう?」
「都市伝説クラスの呪霊に使い道あるわけ?」
「それは手に入れてから考える」

               *

 祭りの準備と言っても、よそ者に見せるほど大層なものではない。それは五年前から知っている。むしろ、五年経っても続いていたことに驚いた。
 山の化け物を退治した神を祀る祭り。それに五穀豊穣の祈りが混ざって形成された儀式だ。全国的に見れば、成り立ちはそれほど珍しいものではない。農業を主体としたこの国ではよく見られる形態だ。
 五年前、祭りを見届けることなくこの地を去った。
 後で聞けば、祭りはなんとか行われたらしい。あんなことがあったのに祭りを中止にしなかったのは意地なのか、それほど伝統を重んじているのか。どちらにせよ、こちらには関係のないことだ。
「ど、どうですか?」
「同じ祭りを続けているなら、似たような呪霊が生まれることはありえますね。結局は人の感情が生み出すものだし」
 同じ畏れがあるのならば、同じ呪霊が生まれる可能性はある。心霊スポットと同じ原理だ。同じ感情が同じ対象に向けられているなら、再びその感情が呪霊を生み出す。
 ――だとしても、早すぎる。
 ふと、視界の端を横切った呪力(いろ)に顔を上げた。
 その残穢は空気中をうっすらと漂い、煙のように道の先へ続いている。その道を、五条はよく知っている。――山の中の神社だ。
「今――」
「どうかされました?」
「何でもないよ。それより、これは何に使うんですか?」
 布に包まれた箱を五条は指さした。漏れる呪力の性質から、中身はだいたい見当がついている。五年前、勝手に神社に上がり込んで調べた時から特に変化はないようだ。
「これはですね、この神社に伝わる扇で――」
 適当に話を聞き流しながら、五条はそっと周囲を見渡した。
 間違えるはずがない。
 この六眼(め)が間違えるはずがない。いや、この六眼(め)がなくたってわかる。
 あれは。あの色は。あの残穢は。
「――傑」
 久しぶりに呼んだ親友の名前は、五条にも判然としない感情でかすかに湿っていた。

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