「だって俺たち、最強だし」
 いつから五条がそう言うようになったのか、正確には覚えていない。
 初めて言われた時のむずがゆさは覚えているのに、何故だか、いつ言われたのかはさっぱり思い出せない。二人して特級呪術師に認定された時だったか。それとも、二人で任務をこなすのが定着した頃だったか。
 気づけばそう名乗るのが、ごく当たり前になっていた。向かうところ敵なしの自分たちには、とてもふさわしいと思っていた。
「最強なんだから、遺書なんか書かなくてよくない?」
 五条悟は嘘をつかない。
 嘘は弱い生き物がつくものだ。圧倒的な強者である五条には、自分を偽る必要も他人を騙す必要もない。ただ、その力で有無を言わせずねじ伏せるだけだ。誰もが頭を垂れるような、誰もが垂涎するような、その力で。周囲の目を眩ませるような、強烈な光で。
 だから、そんな彼に〝最強〟と評されることを――その隣に立っている自分を、誇らしく思っていた。
「書かなければ単位はやらん」
「ええー」
「これ、何の単位になるんですか?」
 夜蛾は答えなかった。
「つべこべ言ってないでさっさと書け。でないと進級させてやらんぞ」
「ていうかもう特級なんだから、進級とか別によくない?」
「悟! オマエはなあ――」
 夜蛾の説教が始まったのを聞き流しながら、夏油はペンを握った。書けと言われても、特に思いつかない。最初の頃とは違って、残す必要を感じないのだ。一年生の時は比較的真面目に書いていた。――いや、最初からふざけていたような気もする。
「せんせー、できましたー」
 間の抜けた五条の声が隣で上がる。夜蛾の説教をものともしない胆力はさすがだ。
 どうせ何を書いても夜蛾は何も言わない。読んでいるかも怪しいものだ。それならば、五条のようにふざけた内容でもいいだろう。
「それじゃあ私は――」
 上質な紙にペンを走らせる。書き終わった後、五条と交換して読むのも恒例になっていた。これを読んだ五条の反応が楽しみだ。

 瞬きの間に過ぎ去る青臭い日々が、永遠に続くと疑いもしなかった。遺書なんて不要だと、五条だけでなく、夏油も本気で思っていた。
 自分の背中には羽があると信じていた。二人でどこまでも飛んでゆけると信じていた。
 夏油傑の人生が最も輝かしかった頃の戯れ言だ。

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