初出:2019年エイプリルフール企画

 永遠なんてない。
 知っていたことだ。あの場にいた男たちは消えた。名を変え、顔を変え、誰一人元の姿を保ってはいまい。自分だってそうだ。街中で再会したところで、きっと知らん顔をするだろう。
 他人だった彼らは、他人同士に戻っただけだ。
 他人でいられなかったら、脱落するしかない。
 手ずから処分した男の顔が脳裏をよぎる。思い出と呼ぶにはいささか薄い記憶の集合が、この頭に収められている。寂しいとか悲しいとか、そういう感情はない。最初から持ち合わせていない。
 ――彼はそうではなかった。
 死に際の顔は、諦めの中に安堵がにじんでいた。自分が後始末をつつがなく終えることを確信している顔だった。
 死地に送られたのに、死ねなかったのは幸か不幸か。悪運が強いのも考えものだな、と何の感慨も湧かずに思う。
 特殊な任務だった。死ぬな、殺すな、の彼らが本来手がけるはずのない仕事だ。それを任されたことを、生涯忘れないだろう。魔王が何を思っていたのか、興味がないわけではなかったが、余計なことに首を突っ込む趣味はない。
 きっと、一度きりの任務だ。二度目はない。最初で最後だろう。
 ならばせめて、その顔を忘れないでおこう。
 己の記憶力が完璧すぎるほどに、寸分違わず脳裏に再現した彼が淡く微笑んだ。
 ――それだけでいいよ。
 そう、言われたかったのだろうか。

(飛崎を殺す福本。スパしご2の名刺の福本視点のつもりで書き始めたものの、なんだかんだで公開しそこねた)

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