これは呪いだ。自分が背負った枷。逃れられぬ失敗の証。おそろしい呪いだ。子どもを抱き上げた時から始まっていたのに、愚かにも気づかずに。ああ、と呻く。好奇心に殺される猫のようだ。もう、この手を振りほどけない。しあわせなどというものに呪い殺されてしまう。その痛みに思わず笑みがこぼれた。

人間になってしまった(甘利)



用済みの顔を脱ぎ捨て、仮面を身につけるように新しい顔を貼り付ける。ふと見下ろせば、不要になった己の顔が足下に散らばっている。任務を終える度、自分の顔が数を増していく。今の顔もいずれ処分することになる。虚ろな目をした私の分身たち。やがて積み上がってこの身が埋もれる時が来るだろうか。

孤独が降り積もる(機関員)



父の歩いた足跡をたどるようにわたしは進んでいる。かつて誰でもなかったあなたがわたしの父親になるまでのすべてを知りたくて。わたしたちの終焉を何度も何度もなぞる。他の終わらせ方を探している。けれど、何度確認しても同じ結末にたどりついてしまうのだ。それにわたしはこの上なく安堵している。

泣いてしまいそうなくらいに(エマ)



一緒に逃げましょうと言った。その人は首を振った。ここでお終いだ、続けることはできないんだ。そんなことないわ、わたしさえ黙っていればいいのよ、そう言い募ってもその人は頑として頷かない。知ってるわ、だってこのあと、わたしは握りしめたものを構えて照準を――そんな夢を見られればよかった。

夢でも会えない(エマ)



仮面を剥いだその下にがらんどうの瞳がある。人らしい感情を一切持たない、無機質な瞳。だとすれば、あの仮面の表情はどこから来るというのだろう。皮肉げに歪めた唇が嘯く、感情などないのだと。本当にそうだろうか。たとえ偽物だとしても、完璧に演じられるなら、それはもう本物ではないのだろうか。

にせもの、ほんもの(佐久間)

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