「ほら、捕まえた」
エマが笑う。大人びた顔が妖艶に綻ぶ。
子どもの成長は早い。いつの間にか甘利の手を離れて、ひとりで歩き出していた。
甘利が任務中に拾った子どもだった。ほんの小さな子どもだった。彼女を育てているうちに、本当の父親のような気持ちになっていた。
――とらわれていたのは、甘利のほうだった。
「もう逃げられないわよ」
「――そうだね、僕のお姫さま」
そう、とっくに逃げ場はない。甘利が自分で道を狭め、今、エマが逃げ道を塞いだ。
エマの細い指が甘利の手を取る。節くれ立った、年相応の手を。顔には出ない実年齢が刻まれた掌を、白い手が包むのを眺める。
丁寧に、銀色の華奢な指輪を左手の薬指にはめられた。
「これは手錠なの。勝手に外してはだめよ?」
手をかざせば、重さなど感じないほど小さな手錠は、きらりと光を反射して輝いた。
「わかっているよ」
「本当に?」
「本当に」
微笑んで、甘利はかがんだ。
エマが顔を寄せてくる。
唇が触れあう瞬間、たしかに、手錠のかかる音が聞こえた。