キルヒアイスからアンネローゼへの愛は淡い初恋から始まって、アンネローゼからキルヒアイスへの愛は家族愛にやや傾いていたのかなって思った
隠遁生活を送っているアンネローゼが貴族の子どもを拾ってそばに置いているのを見た瞬間、ラインハルトの代わりなのでは?と思ったんだよね
ラインハルトにはもう姉しかいないけど、アンネローゼにも弟しかいなくて、一人きりで過ごせるほど孤独に耐える強さは姉弟ともないんでしょう

シェーンコップの造形、すごく現実味があるな…辛辣な物言いや飄々とした態度は自分を守る盾なんだよね
亡命時の入国審査官の卑しむような目つきに始まり、きっと彼の行く先々では常に侮蔑が付き纏い、軍に入っても亡命者枠で決して同族扱いされず、同盟の掲げる自由が建前にすぎないことを知っている
飛び抜けて優秀でないと人並みの扱いを受けられないだろうし、それでもなお生まれによる差別は厳然と存在して覆せない
国を守るための軍人なのに、国やら体制なんか本当はどうでもいいと思っているのは、一度失ったものの価値などたかが知れているから
ヤンが怠惰な性格で細かいことを気にしないから信頼されて出世しているだけで、薔薇の騎士連隊は隔離措置に等しいわけだし(国防の観点から見て国家公務員に一定の就労制限が設けられること自体はおかしくないが)
だからシェーンコップはたぶん、自分が思っている以上にヤンのことが大好きだよ

でもどうせシェーンコップも死ぬんだ…

そういえば薔薇の騎士連隊で亡国のアキトを思い出した たぶんアキトと違ってゲットーに押し込められた家族への市民権付与を餌にちらつかせているのではなく、純粋に兵士が足りないから苦肉の策で設けられたんだと思うけど

シェーンコップは祖国を失っても十分生きてゆけること、祖国などというご大層なものが実際には大したものではないことを齢6歳にして知ってしまったので、自分を守るために何事にも一歩引いた立場で、決して本気になっている様子を見せず、ふらふらして居場所を固定するのを嫌がる節さえあるが、
過去に大切だと思っていたものを失っても全然平気で生きてゆけると知って執着できるものを持てなくなってふらふらしているようなこの手の人間は、いったん興味を引かれるものを見つけたら一途になってしまうんだ
たやすく喪失し得ることを知ってしまうと、失っても傷つかないように大切なものを作らないか、それが自分にとって大切ではないように装うか
いずれにせよ、異邦人の中で付かず離れずの距離を保って立ち回り、己さえあざむく器用さの裏に臆病さに似た弱い心が隠れているのかもしれない

コミュニケーションとは本質的に互いを傷つけあうものであるとみなしているので、シェーンコップのような他人に深入りしない人間の心の奥底には往々にして傷つきたくないという臆病な欲求があるのではないかと思うんですよね
これはBrown&LevinsonのPoliteness Theory(語用論)に基づいています

キャゼルヌはそのあたり、生粋の世話好きとみえるので他者(と接して傷つくこと)を恐れはしないんだよね そこが同じく毒舌家のシェーンコップとの違い

キャゼルヌとシェーンコップ、ヤンがいない間に仲良くなってないか?

ヤンがユリアンにときどき父親面をするのは、やたらと先輩風を吹かすキャゼルヌの真似なんじゃないかと思う

4巻を半分くらい読んだところなのでそろそろ作風がわかってきたのですが、登場人物皆が沼ですね 作者は相当に人間が好きとみえる

同期が開口一番に「ヤンは死ぬよ」とネタバレしたせいで毎巻誰が死ぬのかとひやひやしながら読んでいるが、たぶんこれは正しくない…

オーベルシュタインの乾ききった情動は、一時の気まぐれを起こして飼っている老犬が死んだ時には動くんだろうか

シェーンコップは人当たりは良い方だし社交的でさえあるけど、それは表面上のことでしかなく警戒心が強いだろうに、ヤンの前で己の過去を初めて口にしたシーンでめちゃくちゃ興奮しちゃった…シェーンコップにとって過去は弱みに直結しているので、ヤンに随分と心を許してるよ、自覚している以上に
社交的に見える色男が実のところ一部の隙もなく武装して自分の引いた線より内側には誰も決して立ち入らせないのに、自分から線を越えて心の内をさらけ出すのだから最高に決まってるじゃないですか、しかも自覚も十分ではなく!

シェーンコップが亡命時に幼かったことに鑑みて「祖国を一度喪失している」のは言葉の綾で、そもそも祖国愛なるものを形成する前だったのではないか?とは思いますね
あるいは貴族教育では銀河帝国の素晴らしさを讃えて同盟を叛徒と謗る内容が色濃かったのかもしれないけれども

ヤンが国の興亡よりも生き残ることが大事だと兵士を鼓舞していたけど、祖国を喪失することへの実感はたぶんまだ持っていなくて、あの面子だとシェーンコップ(とメルカッツ)にしかないと思うんだよね

ラインハルトとヤンがW主人公として構成されているから最終的には同盟と帝国が和平を結ぶのかと思ってたけど、同盟の民主主義が腐敗しすぎて政治ゲームに堕しているからラインハルトが銀河を統一してしまうのかなと思い始めてきた
ラインハルトはキルヒアイスを失った穴を永遠に埋められず、立ち止まったらもう歩けないからひたすら走り続けているだけで、玉座に座ったら死にそうなんだよね
オーベルシュタインもラインハルトを皇帝にしたら満足してなんか死にそう…

ヤンからユリアンを引き剥がされてしまったので、これはもうフレデリカと結婚するいい機会ですよ ヤン一人では食事もままならないでしょ

キャゼルヌが割と真剣にヤンの生活を心配しているのを見ると、お前はお母さんか!って思う 世話好きなんだなあ…

ただ一人の友の死を薪としてくべて更に苛烈な炎を燃え上がらせるラインハルトを一瞬期待していたんだが、心に空いた穴を埋めるすべのないまま持てるすべてを燃やして前進するしかないのか? 燃え尽きるその時まで、新しく薪を得ることもなく失う一方で

ヒルダはどうするんだろ くっつくの?

メルカッツが巻を追うごとに哀れになっていくな…40年も皇帝を頭上に戴いてきたのに、今更考え方を変えられるはずもない もう60すぎのおじいちゃんだよ

ラインハルトの胸の奥に広がる虚無はキルヒアイスの形をしているけど、オーベルシュタインの虚無はたぶん人の形をしていない むしろそれゆえに広大で荒涼とした虚無が広がっているように見える

シェーンコップの亡命時の入国審査官のことは一生忘れないという台詞、まあわたしも「国語じゃなくて日本語だろ」と言ってきた隣のクラスの男子のことは一生忘れないしな…と思った

2〜3巻を読んでいた時のワルター少年の幻覚が4巻でますます強くなってきた
同盟で差別される祖父母が心の拠り所として自分たちの貴族の血統に縋り、それを孫にも押し付けている構図なのでは? もしかしたら亡命したことを後悔して、いつか帝国に戻れるようにとワルター少年に教育していたのかも
薔薇の騎士連隊が過去に帝国側に寝返ったことが何度かあるのは、自由とは名ばかりで亡命者を本心では疎ましく思う雰囲気に、せっかく同盟に尽くそうとしてもその心を折られて反転した帝国出身者が少なからずいたのでは?と思うんですよね
逃げても結局馴染めず帰国するのは特段珍しい話でもないし

シェーンコップが喪失したのは祖国ではなく、祖国を愛する心を育てる機会、祖国という感覚そのもの、そこから持てるはずの共感性だったのではないかと思うんだよね
だから自分がいる場所に愛着が持てないし、その手のものを共通項として団結する共同体に馴染めない
だから自分に否応なく背負わされる属性を無視する人間が現れると興味を引かれるし、自分を信用してくれるから自分も信用しようとする、傷つくことを恐れずに無防備にも胸襟を開いてくれたから

ミッターマイヤーとロイエンタールってくだらない口論の末に殴り合いするタイプの親友なのかよ!

ロイエンタールが酔っ払ってミッターマイヤーに話すつもりのなかったことまで話してしまうのではなく、そもそも酔うほど酒を酌み交わす相手がミッターマイヤーしかいないのでは?と訝しんだ
ロイエンタールってどう見ても友達少ないし

ロイエンタールが女と長続きしなくとも決して二股しないのは、母性愛の代替品、もしくは真実の愛を探しているのかな…この感じだとたぶん、付き合ってる時は女を粗雑に扱わないんだろうし
女の方が自分ではロイエンタールの孤独を癒せなかったと思っている可能性すらある
そのくせ真実の愛で結ばれていることが明白なミッターマイヤー夫妻を(少なくとも表立っては)認めないロイエンタール、性格がねじ曲がっているにもほどがある

エヴァンゼリンがもし本当にミッターマイヤーを裏切った時、ロイエンタールはどう思うんだろう
それ見たことかと友を慰めつつ唇を歪めて女性不信を一段と強くするのか、それともこんなはずじゃなかったと愕然として、それから自分が本当は友人夫妻に真実の愛を期待していたことを思い知るのか

キャゼルヌパイセンってそのうち「ヤン・ウェンリーはおれが育てた」とか言い出しかねない雰囲気ないですか?

頬を紅潮させながら同盟に攻め入る作戦を話すラインハルト、かわいいわね まだ22歳だものね

独裁者であるところのラインハルトが同盟を「啓蒙」するところ、おもしろかったな 民衆にとっては国家の体制よりも日々の暮らしが優先されるので有能であればどんな形でも構わないんだよね
それを仮にも民主主義を掲げる同盟の評議会はあえて無視しているからマジで滅びそう

そういえばだいたいみんな一人称が公式な場では「私」でくだけた口調では「おれ」になるのに、ヤンだけは常に「私」なんだね
こいつ学生時代はどうだったんだろう
ヤンがずっと「私」を使うのは彼の冷静な性格と常に自分の行いが正しいかどうか内省している描写に合致しすぎて、「おれ」とか言ってる場面が思い浮かばないな

シェーンコップと白兵戦で対等に渡り合って生き延びたロイエンタールが強すぎて笑っちゃった ヤンなら最初の3秒で殺されてる

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